「生物多様性」とは、いきものの「個性」と「つながり」のことをいいます。地球上にはさまざまな自然があり、そのさまざまな自然に適応した多様な生物が生息しています。これらの生命は一つひとつに個性があり、すべて直接的、間接的につながりあって生きています。もちろんその中には人も含まれます。
以前であれば当たり前だったこの生物多様性が、現在急速に失われつつあります。たくさんの生物が絶滅の危機にさらされており、その原因の多くは人にあるのです。たとえばメダカは、私たちの住む人里で暮らす一番身近な魚でしたが、メダカのすみやすい田んぼや水路などが減り、今では絶滅の恐れのある生物の一つになってしまいました。こうした現状を知り、生物多様性を守るための活動を起こすことが求められています。
「生物多様性」を守るために、私たちができること。それは、まず第一に生物多様性について理解することで、そのために注目されているのが「ビオトープ」です。
「ビオトープ」とは、ドイツ語の「生命(bio)」と「場所(topos)」の合成語です。多様な種類の生物が、自分の力で生きていくことのできる自然環境を備えた場所をビオトープと呼んでいます。自然の中には森林、湖沼、草地、河川、池、湿地、干潟、砂地など、いろいろなタイプのビオトープがあり、さまざまな植物や動物がたがいに食べたり食べられたり、複雑に関わりあいながらバランスを保って生きています。
最近では、生物のすみやすい自然のビオトープを保護したり、学校内や公園などに人工的にビオトープを設置し、地域本来の生態系を復元する活動が広がっています。それぞれの地域にあるビオトープは、自然の仕組みや生物多様性の大切さを身近に感じることができ、生きた環境教育の場として注目されているのです。
参考:環境省生物多様性ホームページ
生物多様性は、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性という3つのレベルの多様性から成り立っています。
生態系の多様性 | 森林、草地、川、湿原、干潟、サンゴ礁などいろいろなタイプの自然があります。 |
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種の多様性 | 動物や植物、微生物まで、いろいろな生物がいます。 |
遺伝子の多様性 | 同じ種でも異なる遺伝子を持つことで、形や模様、生態などが少しずつ違います。 |
当たり前と思っている私たちの毎日の生活は、たくさんの生物多様性の恵み(生態系サービス)から成り立っています。
すべての生命の存立基盤 | すべての命の基盤である水や大気、土壌などは、地球全体の生物多様性によって支えられています。 |
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暮らしの基盤 | 野菜や魚などの食料はもちろん、紙や布、医療品など、すべてがさまざまな生物の恵みです。 |
豊かな文化の根源 | 地域ごとに違う自然と一体になって暮らすことで、それぞれの地域の豊かな伝統文化が育まれました。 |
自然に守られる 私たちの暮らし |
森林や河川などの豊かな自然は、安全な水の確保や自然災害防止など、私たちの暮らしを守っています。 |
日本の生物多様性は4つの危機にさらされています。人間活動による影響が原因で、たくさんの生物が危機に直面しています。
第一の危機 | 開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少など、人間活動による影響です。 |
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第二の危機 | 人の手入れ不足で里地里山が荒れるなど、人間の自然への働きかけが減ったことによる影響です。 |
第三の危機 | 人が持ち込んだ外来種で生態系が乱されたり、化学物質などによる影響です。 |
地球温暖化による危機 | 地球全体で問題となっている温暖化は、多くの種の絶滅や生態系の崩壊につながります。 |
河口付近にできる砂や泥の浅瀬である干潟は、川から豊かな栄養が運ばれ、カニや魚、水生植物、プランクトンなどが数多く生息します。さらには、さまざまな生物が外から産卵や子育てに来る場所となっていて、「いのちのゆりがご」ともいわれています。また、水をきれいにする働きもあります。外海の波の影響の少ない内湾や入り江などに多くみられ、日本最大の内海である瀬戸内海には多くの干潟がありました。
しかし埋立てなどにより干潟は急速に減少し、瀬戸内海でも1898年から1990年までの90年間で半分以上の干潟が失われました。干潟の減少とともにさまざまな生物も減少、なかには絶滅の危機にさらされているものもあります。現在、干潟の重要性が認識され、国や自治体もさまざまな活動をはじめており、干潟のような人の手が加わることで豊かな生態系を育んできた沿岸の海「里海」の情報提供、保護活動への支援も進められています。