研究本部(つくばエリア)前臨床基礎研究所

難治性疾患という、メディカルニーズが高く、 治療が行き届いていない領域にチャレンジし、 新たな医薬品を生み出すことが使命です。

  • 一ツ町裕子【研究本部(つくばエリア)前臨床基礎研究所 第一研究室 室長(兼)第二研究室 室長】

薬の種のアイデアをゼロから生み出す

――研究本部というのはどんな位置づけになる組織なのでしょうか。

「この病気のために、こんな薬を創りたい」というアイデアから薬の種を生み出す部分を担う本部です。大鵬薬品におけるものづくりの基盤であり、ゼロからイチを生み出す場所です。医薬品を患者さんに届けるにあたり、最終的には全社員が直接的、間接的にそのプロセスに関わって一緒に作り上げていくわけですが、まずはその薬の種を見つけ出し、そしてその種から芽が出るところまでを担っています。

――一ツ町さんは入社以来、どのような研究に携わってきたのか、教えていただけますか。

2019年12月末まで研究本部の安全性研究所(徳島)に所属し、毒性・安全性の研究に携わっていました。新薬の開発は、数ある候補物質の中から選別し、治療に有効だと思われる化合物を絞り込んでいくわけですが、選んだ化合物の毒性を調べ、ヒトに投与しても安全なのかという観点で評価を行っていました。

入社して初めて承認申請資料の毒性に関するセクションを担当したのが希少がんに対する治療薬だったのですが、これが今年製造販売承認の取得に至ったことは非常に感慨深かったです。

また在籍中は、同じ安全性研究に携わる国内の他製薬会社の研究員と、iPS細胞を使った新たな毒性評価の有用性を検討するような共同研究などにも関わっていました。

――そして2020年1月からは?

そこから2021年末までは創薬企画推進部リサーチアライアンス課に所属しました。こちらでは、グループ会社や国内・海外の製薬会社、大学などと協業プロジェクトを推進するため、研究員同士のコミュニケーションや、円滑に研究を進めるための仕組みづくりなどを行うアライアンスマネジャーとして、多くの研究員や研究本部以外の社員、そして協業先の関係者を含めた非常に多くの方と一緒に業務を行ってきました。

純粋な研究職から離れたものの、他社の方々と一緒に効果と安全性が高い医薬品を創り出そうとディスカッションをすることは楽しかったです。創薬のプロセス自体は各社それぞれのやり方があり、大鵬薬品と異なる部分も多くあります。でも、より良い薬をより早く患者さんに届けたいという根幹にある気持ちは全く同じでした。そのことを知ることができたのは大きな収穫でした。

できる限り副作用が少ない中で効果が持続する薬を

――なるほど、そうした経験を経て22年1月から現在の前臨床基礎研究所へ。どのような部署なのでしょうか?

前臨床基礎研究所は2022年1月に誕生した研究所になります。それまでは、創り出した化合物がどれだけの効果があるかを確認する薬効薬理試験と呼ばれる試験を行う部署と、毒性を評価する部署とが別々に存在していました。

それらが統合され、薬効薬理試験などを含めた薬理研究・評価から毒性・安全性研究・評価までを幅広く行う部署が前臨床基礎研究所になります。同研究所には第一から第四研究室まであり、第一研究室はつくばで残りの3つの研究室は徳島にあります。現在、60人以上が所属しています。

――その中で一ツ町さんはどんなお仕事をされているのでしょうか。

私は1月から第一研究室の室長、7月からは徳島にある第二研究室も兼任でマネジメントを行っています。これらの研究室では、主に創薬段階初期の化合物から臨床試験に移行する直前までの化合物の薬理・毒性研究や評価を包括的に行っています。特に創薬の初期段階にある化合物がヒトにおいて効力を示す可能性があるかどうか、その際に副作用が起こるリスクはないかなどの評価を動物やヒトの細胞および動物での試験を通して行っています。

――2つの部署が統合されたメリットはどんなところにあるでしょうか。

私が以前所属していた安全性研究所は毒性の評価を担う部署ということで、毒性の専門家は多く在籍していましたが、薬効薬理評価に詳しいメンバーはいませんでした。でも、薬効薬理評価の専門家たちと一緒に研究を行うことで、薬理と毒性という異なる専門性を持つ複数の目で化合物の評価ができるようになりました。また、これまでつくばには毒性評価専門の部署はなかったのですが、毒性評価も行える私たちの部署がつくばにあることで、以前よりも早い段階で毒性を評価できるようになり、より化合物評価のスピードアップが期待できると思います。

また、違う分野の者同士が活発に対話・意見交換することで互いに新たな視点を得ることができ、今までとは違った発想が浮かぶことも増えました。私自身、関わる領域も関わる人も増えたことでさらに研究が面白くなりました。

――創薬の研究に携わる人間として気をつけていることは何ですか。

常に最終的には患者さんに投与される薬の研究をしているのだという根幹を忘れないようにしています。
リスク&ベネフィットといって、抗がん剤は多少毒性が出てもそれを上回る効果があれば副作用が許容される面があります。しかし、できる限り、副作用の少ない中で効果が持続する薬を目指すことが大事です。

本当に副作用のことを考えて医薬品を創っているだろうか、病気が克服できればいいと思っていないか、克服した後、患者さんが副作用に苦しむ可能性はないか、あった場合、それは患者さんが受け入れられる範囲なのか。いつも自分に問いかけています。「自分がこの薬を使用したいか」「家族が病気になった時、この薬を勧めるか」というのが私の中で一つの指標になっています。

患者さんが望む「いつも」が「いつまでも」続くことを願って。

――大鵬薬品のコミュニケーション・スローガン「いつもを、いつまでも。」を踏まえ、日々どのような思いで職務を遂行されていますか?

より安全で効果の高い医薬品をいち早く患者さんに届けるというのが私たちの一番のミッションです。大鵬薬品では「がん」「免疫・アレルギー」「泌尿器」の領域をメインに医薬品の開発に取り組んでいます。それに加えて近年、今なお十分な治療薬が開発されていない難治性疾患というメディカルニーズにチャレンジしていくことも私たちの使命です。

人びとの健康な「いつも」が「いつまでも」続くように、また、万が一病気になったとしても再び「いつまでも」続けたい「いつも」が戻ってくるように、私たちは継続的に患者さんにとって必要な医薬品を創り続けなければいけないと意識しています。

――今後、大鵬薬品で実現していきたいことは何ですか。

副作用がない抗がん剤を患者さんに届けることです。究極かもしれませんが、副作用で苦しむ患者さんをできる限り少なくしたいと思っています。

これまでに大鵬薬品が作り上げた技術基盤、そして強みでもある「システイノミクス」創薬に加えて、継続的に新しい医薬品を生み出していくべく新たな取り組みを開始しています。みんなで一丸となってサステナブルな研究を継続的に行い、新しい医薬品を生み出していきたいですね。

※システイノミクス:がんの原因となるタンパク質の機能をコントロールするための新しい技術の一つ。大鵬薬品が10年以上かけて研究を継続してきた独自の技術。

――今回、「いつもを、いつまでも。」を改めて考えたことで感じたことを最後に教えてください。

改めて考えてみると、シンプルですがとても深い言葉だなと思いました。このスローガンができたのは10年近く前だと思いますが、当時と私たちを取り巻く環境もずいぶん変わっています。それでも、その時その時に大切にしたい「いつも」が「いつまでも」続くように私は何ができるのか、何をすべきかを考え続けていきたいなと。ひいてはそれが「大鵬薬品だからすべきこと」に繋がっていくのではないかと思います。