合成技術研究所

薬剤の品質を担保しながら製造可能なプロセスを最適化し、承認申請を実現! 救われる患者さんがいることを願って。

  • 和田志郎(合成技術研究所 プロセス一課)× 仲谷 陵(合成技術研究所 分析一課)

医薬品の品質を確立していく役目を担う重要なセクション

――お二人が所属する合成技術研究所ではどんな業務を行っているのでしょうか。

和田 新薬の開発には治験といって、人に投与して新薬候補化合物の有効性・安全性を確かめる段階があるのですが、その治験に必要な治験用原薬を製造するのが重要な業務の一つです。さらに新薬を患者さんに届けるためには、各規制当局の承認を得なければなりません。そこで、治験を進めていく中で、この候補化合物がどのような製造方法に基づいて作られているか、また、いかに安全性、有効性、そして品質を保証できるものかを、さまざまなデータを取り、資料としてまとめ上げるのが私たちの仕事。最終的には承認申請資料を作成するところまでを任されています。

仲谷 これから世に出す薬の品質の責任を負っているわけです。医薬品を作る上で大事な有効成分、効き目がある化合物を、いかに品質良く安心安全な状態で、患者さんに届けられるかを担保するための仕事をしている部署になります。

和田 品質を保証するためには、新薬候補化合物の製造方法や分析方法の研究が必要になってきます。合成技術研究所では、私は製造方法を、仲谷さんは分析方法の研究を担当しています。製造方法次第で何をどのような手法で分析しなければならないかが変わりますし、分析することで初めて不純物の存在が判明することもあるので、仲谷さんの部署にはその分析方法の開発をお願いすることがあります。

仲谷 製造方法は無限にあるため、製造方法の変更にあわせ分析方法も変える必要があります。「品質の良い化合物です」と自信を持って言えるものを創り上げるため、相談しながら進めています。

――2021年に、製造販売の承認申請を行った新薬のプロジェクトにお二人とも関わっていたと聞いています。

和田 承認申請を行ったのは、胃や小腸などの消化管の壁にできる消化管間質腫瘍(GIST)という、希少がんを対象にした抗がん剤です。希少がんなので患者さんが限られているということもあって、しばらく新薬が出ていませんでした。進行がんの場合、Aの薬が効かなくなったらB、Bが効かなくなったらCといった具合に治療薬を変えていくのですが、GISTは使用できる薬が少なくて、もう次の薬がないという状況に追い込まれる患者さんがいたわけです。そのような方々にとって、新しい治療選択肢となり得るような位置づけの新薬になります。

――希少がんに有効な抗がん剤とのことですが、創製した化合物が特定のがんに有効かどうかはどう見極めるのでしょうか。

和田 「こういう化合物がある。まずは非臨床試験などを通して、これが何かの病気に効きそうだ」と見極め、投与量や投与方法、どういう患者さんに投与するかという戦略を研究本部や開発本部が企画立案の上、各種研究を通じて検証を進めます。そうやって新薬候補化合物が特定された段階で、私たちのところへバトンが渡されます。私たちはどういう病気に効くかというより、この新薬候補化合物について、品質を担保しながら大量に製造する方法を見い出し、また、その品質を担保するための分析を徹底的に行いました。そして2021年9月、ようやく承認申請に行き着いたというわけです。

――新たな薬を開発し、申請まで辿りつけることはなかなかないそうですが。

和田 創薬研究における化合物探索の段階から考えると、一般的には25000分の1くらいの確率と言われています。私たちの合成技術研究所に移ってくる化合物は、いくつかの関門を既に突破しているのでもう少し確率は高くなると思います。

仲谷 既存の薬の錠剤の形や量を変えて出すことは比較的多いのですが、自社で作った完全な新薬の承認申請に携われるのは、貴重な経験でした。

患者さんのために承認申請を遅らせるわけにはいかない。

――では、承認申請にこぎ着けるまでに大変だったことを教えてください。

和田 今回、承認申請した薬剤の原薬は、それまでの経験やデータ蓄積から、高い品質で製造する自信はありました。ただ、承認申請を行うためには、そのことを客観的に裏付けるデータを多岐にわたって取得する必要があります。例えば原料一つをとっても、「その原料を使用し製造して安定的に高い品質の原薬が製造できるのか」という原料の選択の妥当性を示すためにさまざまな試験を実施し、原薬の品質に影響がないこと確認します。それだけに、書類申請の際に提出するデータは相当なボリュームになります。しかも、目標とする申請日に間に合わせなければなりません。不要なデータを取る余裕はないわけですが、足りなくてもいけない。申請書類に不備があるとそれだけで最終的に薬の承認が遅れてしまいます。そこを遅らせないようにするのも私たちの責務です。

仲谷 医薬品は品質がとても大事です。勝手に追加の作業を加えたり、より簡単に作れるように作業を変更したりして、最終的には最初に示した製造方法と同じ品質になるからいいよねっていうのは認められません。製造方法、および分析方法などもすべて規制当局に提示した通りに作り、予定通りの品質が得られないと、それは薬として承認されないわけです。

万が一、勝手に製法を変えたことで健康被害リスクのある不純物が混ざり、患者さんに予期していなかった健康被害を与えることは許されません。一瞬で会社は社会からの信頼を失います。それゆえ、誰が行ってもこの品質が得られるという確実な製造方法と、この評価をしているからこそ品質を担保できるという分析データをセットで提出することが非常に重要なわけです。

――この新薬のプロジェクトを進めていくにあたり、製造方法担当の和田さん、分析方法担当の仲谷さんの間でどのようなやりとりがあったのでしょうか。

和田 このプロジェクトを合技研で担当し始めたのが2012年ごろ。私が関わり始めたのが2016年、仲谷さんが2019年からです。仲谷さんが加わった頃にはもう製造方法は決定していたのでそれに合わせて必要な分析データを仲谷さんに取ってもらうといった段階に入っていました。いろいろと決まっていることが多く最終段階にあるはずの状況ではありましたが、それでも意見がぶつかることはありましたね(笑)。でも、役割が違うからこそ、それぞれの立場からの意見が言い合える。すごく建設的な話し合いができてよかったです。

仲谷 和田さんは理路整然とわかりやすく話してくれます。論理的に前向きな議論ができる人なので勉強させてもらいながら、意見を言い合うことができました。あとは、データを分析する期間としてこれぐらい時間がほしいといったスケジュール調整をお願いすることもありました。

和田 仲谷さんは承認申請など経験が豊富。非常に頼りがいがありました。助けてもらうことも多かったです。

製薬会社として新薬を出すことは患者さんへの思いを示すことに

――この新薬の承認申請を出せたことは、大鵬薬品の一員として、どのような役割を果たせていると思いますか?

仲谷 私たちは病気に苦しむ患者さんのために仕事をしていますので、患者さんに新しい薬を届けるという会社としての役割に少しでも貢献できたと思っています。また結果として、新しいものを創ることは会社の技術力を示すことになります。患者さんのためになる薬が届けられたということで、次の新たな薬に自信を持って取り組めることになるとも思います。

和田 大鵬薬品が継続して成長していくために薬を出すことは大切なこと。今回は特に新薬の申請を出せたわけですから、その意義は大きいと思います。まだ申請を出したという段階なので、正式に承認が下りるのをドキドキしながら待っているところです*

*取材当時(2021年末)

――ご自身たちは大鵬薬品の中でも要となる仕事をされているという自負はありますか?

仲谷 もちろん、自負はあります。基本的に自分たちの業務は医薬品の効き目を決める有効成分の品質を作ること、品質を認めてもらうことだと捉えています。それゆえ、医薬品の安全性と有効性の両方を支える業務だと思っています。ただ、「大鵬薬品の要」という意識は私たちだけでなく、全社員が持っていると思いますよ。

和田 医薬品は厳しい基準で管理しなければなりません。同時に、待っている患者さんがいらっしゃる。なので、早く申請を出して、承認を得て、少しでも早く患者さんに届けることが大切です。

今まで主に規制当局からの承認取得に言及してきましたが、その根本には患者さんの存在があります。私たちが品質を保証するために試行錯誤を繰り返すのは、あくまで患者さんに安心して使っていただくためです。会社として患者さんが安心できる医薬品を届けるという部分に、自分たちは貢献できているかなと思います。

仲谷 当社だけなく、製薬会社のほとんどが、本当に「考えすぎではないか」と思うくらい品質にこだわり、申請に際しては徹底した準備を行っています。ただ、ほとんどの製薬会社が品質にこだわって安心安全な薬剤を出していても、少数でも品質に疑問がある薬剤を出してしまう会社があると、医薬品業界全体の信頼が揺らぐことになります。命に関わる仕事に携わるものとしてそんなことが絶対に起こらないよう、心掛けています。

――では最後にお聞きします。大鵬薬品のコミュニケーション・スローガン「いつもを、いつまでも。」をどう社会に伝えていきたいと思いますか?

和田 私たちは患者さんに直接接する機会があるわけではありませんが、自分たちが考えた医薬品の製造方法や分析によって品質が担保された医薬品を通して、患者さんの「いつもを、いつまでも。」に貢献できたらと思っています。

仲谷 今ある「いつも」、すなわち当たり前の日常がいかに幸せなことかを伝えるスローガンだと思います。大鵬薬品は多くの人たちの「いつもの大切さ」を支えている会社です。私も一社員として患者さんの「いつも」が少しでも長く続くよう、これからも医薬品づくりの一端を担っていきたいと思います。

  • 「1日でも早く患者さんに届けたい。その一心でスケジュール管理も徹底します」(和田)
  • 「品質を作ること、品質を認めてもらうことが私の責務だと考えています」(仲谷)